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マシュー・ボーンの「白鳥の湖」番外編 サイドストーリー 

実は、こういうものを書いてしまいました(笑)。

あの日のザ・スワンと王子は、前世から強い絆で結ばれていたとしか思えなかった。
スワンが王子を湖へ呼び寄せたよね。
スワンは王子が来るのをず~っと待ってたよね。
百年前から待ってたよね。

あの日(9/20)の公演についての投稿はこちらです。
★マシュー・ボーンの「白鳥の湖」に思うこと その3


ゴメクリ千秋楽を観て(特に2幕と4幕ね)、妄想がぐるぐる渦巻いたあげく、いろいろなパターンを考えたのですが、これはまあ、ブログに載せても大丈夫かなと。


ゴメススワンとマーニー王子の、前世の物語。
よろしければ、お暇な時にお楽しみ下さ~い。



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◆ 「白鳥の湖」前世編 -- 王子とスワン ◆

~ 2014年9月20日のゴメススワンとマーニー王子から想を得て ~


白鳥01




ある国に、美しい王子がおりました。
煌めく瞳と愛らしい唇をもち、華奢で優雅な物腰が人々の目を引きました。
王子は美しいものを愛しました。詩や音楽や舞踊を愛し、武力で争うことを嫌いました。

王子は母の愛を知りませんでした。
王妃は、王子を産んですぐに亡くなってしまったのです。


王は長いあいだ悲しみましたが、家臣たちに説得され、二番目の妃を迎えました。
その妃とのあいだに、王女が二人生まれました。

二番目の王妃は、王子をいつも遠ざけていました。
王女たちよりも愛らしい、と言われる王子となるべく顔を合わせないようにしていました。


王子が成長するにつれ、王は王子と会うのを避けるようになりました。
王子は最愛の亡き王妃に生き写しだったのです。


王女たちが生まれてから、王子は宮殿の離れで過ごすようになりました。

王子のそばには、いつも従者の姿がありました。
従者は精悍な顔立ちで、彫刻のように均整の取れた体をもち、どんな時も盾となって王子を護りました。
彼は武勇に優れる一方で、王子と同じように美しいものを愛し、物腰は優雅で気品がありました。

王子は強く美しい彼を「スワン」と呼び、そばから離しませんでした。




実は、スワンは隣国の王子でした。
国境を接する二国のあいだでは争いが絶えず、スワンの故郷は小国で劣勢にありました。
大きな戦いの後、幼いスワンが人質として連れて来られたのです。

幼い王子と人質のスワンが言葉を交わすことは許されませんでした。
それでも、ひと目見た時から、二人はお互いを意識していました。
王子はスワンのように凛とした美しい子を見たことがありませんでしたし、スワンは王子のように清らかで愛らしい子を見たことがありませんでした。


やがて、降伏していたスワンの母国で反乱が起き、二国のあいだで再び戦いが始まりました。

王が人質処刑の命令を出そうとした時、王子がスワンを従者に欲しいと願い出たのです。
王がいくらだめだと言い聞かせても、王子は引き下がりませんでした。

「従者なら、他にふさわしい者がいるだろう」
「あの子がいいのです。お父様、あの子を僕にください」
「人質はわれらに恨みを持っている。おまえのそばには置けない」
「おかしなことをしたら、その時に罰すればよいのです」
「何かあってからでは遅い。だめだ」
「一生のお願いです。あの子を僕の従者にください」

王子は願いをきいてもらえなければ食事をとらないと言い出し、部屋に籠ってしまいました。

王は困り果て、王妃に相談しました。
王妃はさも心配しているような口ぶりで答えました。
「きっとお寂しいのでしょう。お許しになればよいではありませんか」

王はスワン少年を呼び出し、さまざまな質問をしました。
スワンは自分の置かれた状況をよく理解していました。

王はスワンが素直で賢く思慮深いことを見てとり、王子の従者として生かすことに決めました。
「おまえは忠誠心を行動で表わさなくてはならない。断じて疑われるようなまねはするな」


王子とスワンは対面し、初めて言葉を交わしました。

「今日から、きみは僕の従者だ」
「はい」
「辛いだろうけど」
そう言う王子のほうが辛そうな顔をしていました。

スワンは王子を見つめました。
「なぜ助けたのですか」
「え?」
「断食までして、なぜ人質の私を助けたのですか」

王子もスワンを見つめました。
「戦いに負けたら、僕がきみになっていただろう。僕たちは同じだ」

二人は黙ったまま、しばらく見つめ合いました。

その時、スワンは心に誓ったのです。
これから先何があっても、自分はこの王子を守ろう、と。



  ---*---*---*---*---*---



王子はスワンに、自分の後ろではなく並んで歩くよう命じました。
青年に成長した二人が寄り添う姿は、まるで神話を描いた絵から抜け出たように見えました。


宮殿の女たちは、王子とスワンを遠目に見ながらこんな噂話をしていました。

「いつ見ても素敵よねぇ。ウットリする」
「でも、何だか妬けちゃうわ。私たちには全然目を向けて下さらない」
「女には興味がないのかしら」
「目の前にあれだけ素敵な人がいれば、まわりは見えないかもね」
「ふ・た・り・だ・け・の・せ・か・い。いやん♪」


女たちの噂は、あながち間違ってはいなかったのです。

王子にとって、スワンは従者ではありませんでした。父のような母のような、そして親友のような恋人のような存在でした。
スワンにとって、王子は命よりも大切な人でした。


家臣の中には、王子は軟弱だと陰口を言う者もおりました。

「一国の王子があのように女々しい性格では、困ったものだ」
「まったく、女に生まれていれば、どこの王子との縁組も思いのままだったろうに」
「従弟の方と入れ替わっていただきたいくらいだな」


王子には、年の近い従弟がいました。
彼は血の気が多く好戦的で、力による支配を好み、王子を軽蔑していました。
自分が王になれば領土を拡大する、などと酒宴の席で豪語するような人でした。




王子は毎年恒例の誕生日パーティーが嫌いでした。

王妃や王女、従弟などの親戚は、形だけの挨拶をして退席しました。
父である王も、王子に贈り物を渡すと出て行きました。
着飾った娘たちのお祝いのダンスを見ても、王子の心は晴れませんでした。


「王様をお引き留めしたほうがよかったのではありませんか?」
「もうよいのだ、スワン」

王子は自室の鏡を見つめました。
「以前、お父様にお尋ねしたことがある。お母様はどんなお方でしたかと」
「それで?」
「お父様はこうおっしゃった。鏡を見てごらん、そこにお母様がいるよ」

スワンは鏡に映る王子を見つめました。

「今日は僕が生まれた日だが、お母様が亡くなった日でもある。お父様はきっと、お辛いのだ」

王子は両手で顔を覆いました。
「お母様の命を、僕が奪った」
「それは違います!」

スワンは王子の肩を抱きました。
「命懸けで産んで下さったのです。母君の分まで生きねばなりません」
「すまない。きみには家族がいなかったね。僕よりずっと辛い目に遭ってきたのに」

スワンは微笑み、首を横に振りました。

王子はスワンの胸に頭を預けました。
「きみはどこへも行かないでくれ。ずっとそばにいてくれ」

スワンは王子をやさしく抱きました。

 


白鳥02




ある日、王が病に倒れ、歩くことができなくなりました。
王は譲位の決意を固め、王子にふさわしい花嫁を選ぶよう命じました。

王妃の主催で盛大に舞踏会が開かれました。
しかし、王子は急病を理由に姿を見せませんでした。


部屋に籠る王子を、スワンは何とか説得しようとしました。
「こんなことをしてはいけません。まだ間に合います。お出まし下さい」
「わかっている。いつかは通らなければならない道だ。でも、まだ覚悟ができていない」
「結婚を決めてから、覚悟を決めればよいではないですか」

王子は唇を噛み、スワンを見つめました。
美しい瞳にうっすらと涙が浮かんでいました。

スワンは心の中で叫びました。
ああ、そんな目で見つめないで下さい。胸が張り裂けてしまいそうだ!

「なぜ王子に生まれてしまったのだろう」
王子はため息をつきました。
「僕は体が丈夫ではないし、大勢の前に出るのが苦手だし、争いごとも駆け引きも苦手だ。宮廷のしきたりは息が詰まる。今すぐ結婚して王位を継げと言われても、不安でしかたがないのだ」

スワンは、何と言葉をかけたらよいのかわかりませんでした。

「生まれ変われるなら、自由に詩を作ったり歌ったり踊ったりできる身分がいいなぁ」

王子はいたずらっぽい笑みを浮かべました。
「ねぇ、スワン、もしも来世で僕が女に生まれたら、きみはどうする?」
「あなたが男であろうと女であろうと、お守りするだけです」
「花嫁にはしてくれないのか?」
「はっ?!」

スワンは思わず咳き込みました。
「そ、そ、それは光栄です。私でよければ、喜んで」
「あまり嬉しそうではないな」
「そんなことはありません! ただ、いきなり来世の話などをされても・・・」
王子は、クスッと笑いました。

スワンは王子にお返しをしたくなりました。
「では、私が女に生まれたら、どうしますか?」
「えっ、きみが?!」
王子は声を立てて楽しそうに笑いました。

「もちろん、僕の花嫁にするよ」
「こんなに大きくても?」
「かまわないさ。こんなに優しくて頼りになる人は他にいない」
「それは、どうも・・・」
スワンは口ごもりました。面と向かって王子にそう言われると、こそばゆい感じがしました。

「もしも、どちらかが女に生まれていたら、婚姻関係を結んで、両国に平和をもたらすことができただろうか」
「それは難しいでしょうね」
「なぜ?」
「大国の王女が小国の王子に嫁ぐことはあり得ない。小国の王女は大国には相手にされない。国力が違い過ぎます」

「そうか、難しいか・・・」
「そんなことを考えていたのですか」
「きみは考えたことはない?」
「全然」

王子は小首をかしげてスワンを見ました。
「意外と想像力が乏しいのだね」
「妄想力が逞しい方とは違います」
「言ったな!」
二人は顔を見合わせて笑いました。

「本当は、男とか女とか、そんなことはどうでもいいと、最近思うことがある」
王子は真顔になりました。
「男らしくなれと、ずっと言われてきたけれど、僕はもう変わりようがない。このままで王位を継ぐしかないのだ。まわりから何と言われても。でも、その覚悟がまだ持てない」

スワンは温かい眼差しを王子に向けました。
「そのままで、よろしいのではないですか」
そして、喉元まで出かかった言葉をぐっと飲み込みました。
そのままのあなたを愛しています・・・。



  ---*---*---*---*---*---



花嫁選びの舞踏会を欠席したことは、王子を窮地に立たせる結果になりました。
王子は女性を愛することができず、従者と淫らな関係にある、という噂が広まったのです。

噂を流したのは、王子の従弟でした。
「これであいつが死んでも誰も同情しないだろう。軟弱で堕落した王子など王室の恥だ! 私が王位を継ぎ、この国をもっと強くしてみせる!」

従弟は王子の暗殺を企んでいました。


王はスワンの忠誠を信じていましたが、しばらく王子のもとから離れるよう命じました。

それを聞いて、従弟は膝を打ちました。
「よし! 邪魔者が消えた。今夜、決行する!」



  ---*---*---*---*---*---



スワンはあてどもなく歩いていました。
「何てことだ。最悪の事態だ」

独りごとを言いながら、スワンは重い足取りで歩き続けました。

「いったい誰があんな噂を。許せん! あの人の名誉を傷つけて、笑いものにするとは! 私はどうなってもいい。愛おしいと思うだけで罪なら、間違いなく死罪だ。八つ裂きにでも何でもするがいい! ああ、もし、これであの人が王位を継げなくなってしまったら・・・」



「旦那様、良い人相をしていらっしゃいますな」

突然声をかけられ、スワンはハッと顔を上げました。

老婆が一人、立っていました。

「占い師か?」
「さようでございます」

スワンは顔を突き出しました。
「この顔のどこが良い人相だ」
「高貴なお生まれは隠しようがありませぬ」

スワンはいぶかしげに老婆を見ました。

「その上、高潔な騎士のお顔でもあります」
「高潔な騎士? この私が!」

「愛する方を護って命を落とすのは、高潔な行いでございます」
スワンはビクリとしました。
「死相が出ているのか?」
老婆は頷きました。

「愛する方を護って、と言ったな。その人は無事なのか?」
「ご無事でございます」
スワンは目を閉じました。「そうか、よかった」

「他に何が見える。もっと詳しく話せ」
「これ以上、ただでお聞きになるつもりでございますか」
「ああ、悪かった」

スワンは老婆にお金を渡しました。
「おまえにわかることを全部話してくれ」

老婆は空を見上げました。
「今宵は月が見えませぬ。暗闇で悪事が行われましょう」
「今夜か! どこで?!」
「愛する方が呼び出される場所で」
「くそっ! おそばを離れるのではなかった。あの人は今どこに?!」

老婆はスワンをじっと見つめました。
「死ぬとわかっている場所へ、行かれるおつもりですか」
「あの人を救えるなら、この身はどうなってもいい」
「それはご本心ではありますまい」
「何だと?!」

「心の底では、結ばれたいと強く望んでおられる」
「まさか! 絶対に許されないことだ!」
「あの方も、そう望んでおられまする」

スワンは大きく目を見開きました。

「あなた様が死ねば、あの方は後を追おうとなさるでしょう」
「ああ!」
「自ら命を絶てば、願いは決して叶いませぬ」
「どうすればよいのだ?」

老婆はニヤリと笑いました。
「ひとつだけ方法がございます」

スワンはハッとしました。
「おまえは何者だ? ただの占い師ではないな」
スワンは刀に手をかけました。
「悪魔か死神か? 取引などしないぞ。悪魔に魂は売らない!」

老婆はゆっくりと後ずさりしました。
「乱暴はおやめ下さいまし。このままお二人が命を落とせば、二度と会うことはありませぬぞ」

スワンは老婆を睨みました。

「わたくしの話を信じるかどうかは、あなた様次第でございます」



  ---*---*---*---*---*---



王子は、夜道を急いでいました。
スワンの使者と名乗る男に案内された場所は、何年も空き家のまま荒れ放題になっていました。


「本当にスワンは、こんな所で待っているのか?」
王子が使者に尋ねた時、扉の開く音がしました。

「人目を忍ぶ逢引にはもってこいの場所でしょう、王子様」
現れたのは、王子の従弟でした。

「何故きみが?!」
従弟は苦々しげに笑いました。
「まんまと騙されたな。恋に目が眩んだ愚か者よ」

王子は従弟を睨みつけました。
「どういうつもりだ」
「女みたいな顔で睨んだって、怖くも何ともないさ」
「自分が何をしているか、わかっているのか」
「もちろんわかってる。あなたには、死んでいただく」

王子は口を一文字に結びました。
「僕が死に値するほどの罪を犯したというのか?」
「ああ、汚らわしい罪を!」
「くだらない噂を信じてるのか」
「くだらない、だと?」

従弟は鼻で笑いました。
「いつもベッタリくっついていたじゃないか。綺麗な女たちには目もくれず、二人はどこへ行くにも一緒。今夜だって、あいつが待ってると言えば、こんな場所にノコノコついて来た。それでもただの噂だとおっしゃいますかね」

「きみには、心から信じ合える友はいないのか?」
「なにっ?」
「スワンは唯一無二の友だ。従者だとは思っていない。彼はいつも礼儀正しいが、形だけではない、心がある。彼も僕を唯一無二の友だと思っているはずだ」
「綺麗ごとを言うな!」


王子と従弟はまっすぐ向き合いました。
王子の瞳は美しく澄み、一点の曇りもありませんでした。

従弟は目をそらしました。
「あなたを見ていると腹が立つ。子供の頃から可愛い可愛いと大事にされ、王位継承者だからちやほやされる。剣も射撃も乗馬も私のほうがずっと上手い。それでも王位はあなたが継ぐ。王子に生まれたというだけで!」

「きみは男らしくて勇ましい。僕とは正反対だ。羨ましいと思ったこともあったよ」
「嘘をつけ!」
「本当だ。僕が女に生まれていたら、きみが王位を継いだだろう。そのほうがよかったかもしれない」

「ははぁ、女に生まれていたら、あいつと晴れて結婚できたと思ってるのか。それでも無理だな。王女と従者、いいや、敵国同士の王女と王子。和平などあり得ない」
「やめてくれ!」
王子の瞳にうっすらと涙が浮かんでいました。

「そうやってすぐに泣く。軟弱で堕落したヤツ! 王になる資格などない!」
従弟は王子に背を向けました。

「死に値する罪だが、情けをかけよう。王の御前で、罪を犯したことを認めるのだ。そして王位継承権を放棄しろ。そうすれば、命だけは助けてやる」

王子はきっぱりと言いました。
「断る。罪は犯していない」
「バカな・・・。命が惜しくはないのか」
「僕とスワンは潔白だ。僕たちの友情を貶めることなどできない!」

「もういい、これまでだ。自分で選んだのだからな。私を恨むなよ」
従弟の合図で、男たちが剣を抜きました。
「顔は傷つけるな。王をあまり悲しませたくないからな」

王子は青ざめた唇を噛み、目を閉じました。
スワン、 もうきみには会えないのか・・・。

その時、見張りの男が肩から血を流して駆け込んで来ました。
「た、大変です! ヤツが来ましたっ!」
「誰が?!」

「私だ!」
見張りの後ろから飛び込んで来たのは、スワンでした。

従弟は目をむきました。
「何故だ? 何故わかった?!」

スワンは見事な剣さばきで男たちを払いのけ、王子の腕を掴んで引き寄せました。
「私から離れないで下さい」

王子は何度もまばたきしました。
「これは夢か? 僕はもう死んだのか?」
「死なせはしません!」

男が拳銃を取り出すと、従弟はそれを制しました。
「銃は使うな。衛兵に気づかれる」

男たちが剣を構え、王子とスワンを取り囲みました。

スワンは王子に耳打ちしました。
「一気に走ります。決して離れないで下さい」
そして片腕で王子をがっちりと掴み、剣を振りかざして走り出しました。
「うおおおおっ!」

行く手を塞ごうとした男たちが次々になぎ倒されました。

「逃がすな! 追えーっ!」
従弟がいくら命令しても、鬼神のごときスワンに男たちは恐れをなしていました。

「くそっ!」
従弟は銃を構えました。
「閣下、銃は・・・」
「うるさい! おまえたちも狙え!」
従弟は前方の二人に狙いを定めました。
「逃がすものか」

数発の銃声が響き渡りました。



  ---*---*---*---*---*---



王子とスワンはそのまま走り続け、宮殿が見えるあたりで倒れ込みました。

スワンは肩で息をしながら体を起こしました。
「お怪我は?」
「大丈夫だ」
「ああ、よかった」

スワンはがっくりと膝をつきました。
彼の広い肩や背中は血に染まっていました。

「スワン! 血が!」
「もうすぐ、衛兵が来るでしょう」
王子は必死に叫びました。
「誰か!誰か! 早く手当を!」

「私のことは、よいのです」
スワンは王子を見つめて微笑みました。
「よく走れましたね。あなたは、本当は、お強い」

王子の瞳から涙が溢れました。
「しっかりしろ! 死ぬな!」
「よいのです。あなたが、ご無事なら」

王子はスワンを抱きしめ、声をあげて泣きました。
「死ぬな! 僕を置いていかないでくれ!」

スワンは苦しげな息で言いました。
「この体は消えても、私の魂は、いつもあなたを、お守りします」
「だめだ! きみなしでは生きられない!」

王子はスワンの短剣に手をかけました。
「きみが死ねば、僕も死ぬ」

スワンは震える手を王子の手に重ねました。
「いけません。立派な王様に、なって下さい」

王子の瞳から溢れた涙が、スワンの頬を濡らしました。

すると、スワンは目を大きく開き、王子を見つめてこう言ったのです。
「これで、終わりではありません」
「えっ?」
「待っていて下さい。必ず、会いに来ます」
「何を言う」
「百年、待っていて下さい」
「百年?!」
「必ず、あなたのもとへ・・・」

スワンは微笑み、王子の腕の中で息絶えました。
 



白鳥03




従弟は反逆罪で処刑され、王子は即位しました。

若い王は美しい妃を迎え、公務に励みました。

王の心の内を知る者は、誰一人いませんでした。
王は、スワンを失った悲しみを胸の奥深くにしまい込んでいたのです。


無理を重ねたためか、王は高熱を出して倒れてしまいました。
熱にうなされながら、王は夢を見ました。

一羽の大きな白鳥が、高い窓から、苦しむ王を悲しげに見ているのです。
白鳥がゆったり羽ばたくと、爽やかな風が王の体を包み、熱が下がっていきました。

「スワン!」
王はベッドから起き、窓を見上げました。
そこには何も映っていませんでした。

「そうか、きみはいつも僕を見ているのだな。だが、夢の中でしか会えないのか? 白鳥の姿でしか出てきてくれないのか?」

王の瞳から涙が溢れました。
「白鳥でもいい。触れることができれば。言葉を交わすことができるなら・・・。きみに会いたい!」



  ---*---*---*---*---*---



ある日、王は郊外に野生の白鳥が棲む湖があることを知りました。
「もしかしたら、スワンがそこにいるかもしれない」

王はわずかな供を連れて、その湖に向かいました。


暗い森に囲まれた湖は靄がかかり、昼でも薄暗く感じるほどでした。

王が馬車から下りると、どこからともなく老婆が近づいてきました。
「白鳥に近づいてはなりませぬぞ」

王は驚いて老婆を見つめました。

「ここは死者の湖。この世に強い思いを残した死者の魂が、白鳥に宿っているのでございます」

「やはり、ここか!」
王が一歩踏み出すと、老婆が立ち塞がりました。

「白鳥に触れてはなりませぬ。あなた様も死者の世界に引きずり込まれてしまいます」
「無礼者! そこをどけ」
「なりませぬ」
「何をしている。この者を連れて行け」
王が振り向くと、お供の姿は消えていました。

王の顔がこわばりました。
「おまえは何者だ?」

老婆はやさしい声を出しました。
「ここに古くから住む者でございます。年寄りの申すことはお聞きなさいませ」

「会いたい者がいるのだ。ここにいるに違いないのだ!」
「今は、会えませぬ」
「いつなら会える?」

老婆は強い口調で言いました。
「百年、お待ちなさい」
「あっ!」
王の脳裏に、スワンの最期の言葉が蘇りました。
「百年、待っていて下さい。必ず、あなたのもとへ」

王は唇を震わせました。
「百年・・・、生きたくても、生きられない」
「体は滅びても、魂は残ります。生まれ変わっても記憶の奥底には残るのです」

「僕の生まれ変わりが、スワンに会えるというのか?」
「あなた様の思いが強ければ」

白鳥の群れが飛び立ち、王は目で追いました。

「スワンは何故、白鳥に?」
「この湖の白鳥は、百年以上生きるのでございますよ」
「いつか人間の姿に戻れるのか?」
「戻れるかもしれませんし、戻れないかもしれませぬ」
「そんな!」

「それでも、あなた様の思い人は、白鳥に姿を変える道を選んだのでございます」
「ああ、スワン!」
「百年生き続けて、あなた様のご生涯を見守り、あなた様の生まれ変わりを探し出すために」

王の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちました。

「百年のちも、お互いの思いが変わらなければ、必ずや再び会うことが叶いましょう」
 
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